甲南人の軌跡Ⅱ/竹中 統一/仲間と共に力を合わせて、自然と向き合う | 卒業生の活躍紹介サイト | 甲南大学

仲間と共に力を合わせて、自然と向き合う

竹中 統一

Takenaka Toichi

株式会社竹中工務店
取締役名誉会長

1965年 経済学部卒

趣味・特技

登⼭、ゴルフ、スキー

好きな⾔葉

先憂後楽

学⽣時代のクラブ・サークル

山岳部

山登りで培った学びが、後に仕事で活きる

 甲南大学に入学してすぐに山岳部に入り、山登りに没頭する日々を送りました。初めて山の魅力に触れたのは、甲南高校2年のときです。友人に芦屋のロックガーデンに連れていかれ、ロッククライミングを初めて体験しました。その彼とは一緒に山岳部に入部。部員となって初めての本格的な山行では北アルプス穂高岳に登り、山の美しさに魅せられました。

 1年生の夏には40日ほど合宿し、山登り三昧の日々を送りました。まず剣岳に登り、富山に降りて列車で青森へ、青函連絡船で北海道に渡り、さらに知床半島の羅臼岳から硫黄岳へと縦走し、ハイマツの生い茂る道なき道を強引に藪こぎして降りたのを覚えています。

 半世紀以上も前のことですから、今のようなスマートなバックパックではなく、横に広がった重いキスリングを背負っての山歩きです。担いでいくテントなども、今とは違って桁違いに重かった。なぜ、そこまでして山に行きたかったのかと聞かれると、ありきたりですが「そこに山があったから」としか答えようがありません。

 こうした学生時代の山登りでの経験が、後に建築会社の経営者となったときに活きました。山登りと建築には2つの共通点があるのです。第一には、どちらも自然を相手にします。山登りを通じて自然の怖さを身を以て知りました。そのとき芽生えた自然に対する畏敬の念が、建築で自然と向き合ったときに蘇ってきたのです。第二には、どちらも仲間との共同作業であること。山登りでは、1人ではとても越えられないような壁を、仲間と力を合わせて何度も乗り越えてきました。建築プロジェクトも同様で、長い年月をかけて多くの人の力を結集しなければ、完成まで到達できません。やりきったときに全身にみなぎってくる喜びや高揚感も、仲間と一緒に山の頂に立ったときと同じです。

 3年生のときには、両親と一緒にアメリカとヨーロッパへ旅行に行く機会がありました。これまで両親とゆっくり過ごすことがなかったので、とても印象的で今でも鮮明に覚えています。旅の間に将来について語り合うと同時に、欧米の主だった街や建築物をひと通り見て回りました。実際に現地を歩いてみて、西洋の都市計画に通底する建築ポリシーなどを肌で感じられたように思います。この体験により、建築やまちづくりへの関心が高まり、建設業界に飛び込む決意が固まりました。また、帰国後に海外留学していた知人の話にも刺激を受けて、海外での学びについても真剣に考えるようになりました。

最大よりも、最良を目指す経営に専念

 竹中工務店に入社後、ミシガン州立大学のビジネススクールに留学しました。最初はまず語学学校で英語を学び、その後2年間かけてマーケティングに取り組みました。幸い、中学から大学までずっと同窓の先輩であった八木通商の八木社長が、私の1年前から同じビジネススクールで学んでおられたので、先輩からいろいろ教わり、ほかにも良い仲間や先生方に恵まれたおかげで、無事に卒業することができました。語学力はもちろんのこと、国外から自分の国を客観的に見つめる機会に恵まれたことは、今振り返ってもかけがえのない経験でした。そんなご縁もあり、今はミシガン州立大学の日本の同窓会で会長を拝命しています。

 帰国したのが1968年、ちょうど工事が始まった大阪万博の現場に配属されました。そこではソビエト連邦館、西ドイツ館、オランダ館、カナダのオンタリオ館、ケベック館などの展示館を担当しました。留学経験が活きて、海外から来られていた建築家やエンジニアらとも交流できました。

 社長就任以降一貫して追求してきたのは、当社の伝統である「棟梁精神」と「品質経営」です。当社は創業が1610(慶長15)年、創立が1899(明治32)年であり、創業から411年、創立から122年の歴史があります。私は竹中家の17代当主にあたります。

 当社が創業以来、何より大切にしてきたのが「棟梁精神」です。これは「請け負った仕事には最後まで責任を持つ」という棟梁の強い信念を意味します。そのため棟梁には、建物を施工する技術・知識に加えて、多種多様な材料を調達し、組織を率いて大きな仕事を成し遂げる統率力が求められます。この精神を誠実に具現化する経営姿勢が「品質経営」です。

 さらに私たちは「最良の作品を世に遺し、社会に貢献する」という経営理念を掲げ、自社で手がけた建築物を「作品」と呼んでいます。作品を技術、情熱、責任を持って作り上げることで多くのお客様とご縁を結ばせていただき、1つひとつのご縁を大切に信頼を積み重ねるよう心がけてきました。

 その結果、長い年月に亘って信頼関係が続いているお客様が少なくありません。ちなみに1923(大正12)年に完成した旧制甲南高校は、創立者で祖父の竹中藤右衛門が平生釟三郎先生から工事を請け負い、岡本の地に建設させていただきました。その後、父は旧制甲南高校に通うこととなり、祖父から私まで3代に亘り甲南学園とはご縁があることになります。

 私の社長時代に、日本は投資が活発になり、バブルと呼ばれた時期がありました。けれども私はこの時期、投資にはあえてブレーキを踏みました。先祖代々、竹中家に伝わる「最大のものたらんことを期すよりは最良のものたらんことを期すべし」との教えに従ったのです。海外の状況をつぶさに見ていて、カナダで巨大な不動産会社が倒産したニュースを聞いたときは大変驚きましたが、現地現物主義に徹することで、多くが浮かれたバブルでも目を眩まされず、比較的影響を受けずに済んだのだと思います。私は、「先憂後楽」という言葉を座右の銘としています。中国の北栄の政治家である范仲淹(はんちゅうえん)の言葉で、「天下の楽しみに後れて楽しむ」という為政者の在り方を示したものですが、私はこれをもっとシンプルに、「世間が浮かれているときに、むしろ慎重に冷静に物事を見据え、良い結果が出れば後でそのことを喜びとする」というように捉え、心に留め行動するようにしています。

出会いや縁を大切に、
かけがえのない友を1 人でも多く

 平生先生が仰った“徳育”、“体育”、“知育”の三位一体による人格形成の大切さは今もしっかり胸に深く刻まれています。平生先生の教えは私の心の糧であり、経営者に何より求められる人材育成の指針となっています。皆さんもせっかく甲南で学ぶのですから、ぜひ先生の教えを感得し、自由闊達で1人ひとりの個性を大切にする校風を継承していってほしいと願っています。

 また、大学は生涯の友と出会える場でもあります。皆さんも大学での出会いやご縁を大切にする中で、互いに切磋琢磨し合えるかけがえのない友を、たくさん作ってください。そのためには学業を大切にするのはもちろんですが、クラブやサークルなどにも入り、できる限り高いレベルでの活動に取り組んでほしいと思います。

 これからの日本は少子高齢化が進み、やがては人口も1億人を切ってしまうでしょう。世界人口が100億人に達する近い未来に、日本は人口比で世界の100分の1の国になってしまうのです。それでも日本が輝き続けるためには、グローバルな展開が絶対に欠かせません。グローバルやダイバーシティは、既に世界の常識です。皆さんには、より一層国際感覚を豊かに育み、自らの個性を伸ばす努力と、多様な個性を理解し尊重する姿勢が求められます。学生の間に可能な限り広く世界を知るように努め、科学技術に関しても世界の最先端の知見を身につけておくとよいでしょう。

 学生時代の4年間は、長いようであっという間に過ぎていきます。1日1日を無為に過ごすことなく、自らに真摯に向き合い、目指すべき目標や信念の確立に向けて、今後の糧となる経験を数多く積むよう心がけてください。

 志を高く持ち、努力を続ければ、必ず自分を大きく成長させてくれる環境が甲南学園には整っています。この恵まれた環境を精一杯有意義に活用し、充実した学生生活を送られるよう祈念します。

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