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2022/09/01
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【スポ健リレーコラム】[第14回]
運動について考える

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 甲南大学では学部学科における専門的な学びとしての「専門教育科目」の他に、学部学科の枠を超えて全学部生が履修する科目として「全学共通科目」が設定されています。「全学共通科目」には必修・選択を含めて幅広い学問分野の科目が開設されています。今回のリレーコラムでは、「全学共通科目」における「基礎共通科目」で開設されている「スポーツと身体知」の講義内容について紹介したいと思います。

 

「スポーツと身体知」(23年度から「スポーツ運動学」へと名称変更)では、人間が運動を身につけていく営みについて、受講生の経験を理論的に振り返えられるようになる(分析できるようになる)ことを目的として開講されています。ここでの分析拠点は発生運動学と呼ばれている学問になります。発生運動学は、旧東ドイツのマイネルに端を発する「スポーツ運動学」が基盤とされ、わが国の金子が現象学的立場から理論体系を再構築した学問です。

 今日、「運動を分析する」といえば、「運動を自然科学的に分析する」ことがイメージされることが多いように感じられます。そこでの運動は、物理座標系での位置移動に置き換えられ、物理学的・数学的な分析によって、そのメカニズムが明らかにされます。発生運動学では、このような分析とは全く異なる立場から、運動の分析が行われます。例えば、体育授業で馴染みが深い「逆上がり」を例に挙げると、「今までできなかったけど、エイっとやってみたら上がってしまった」場合と「いつでもできると確信を持って、エレガントに実施しようと思って上がった」場合とでは、同じ「逆上がり」であってもその意味は大きく異なります。つまり、ある運動を分析する場合、それを数値によって評価することを試みるのではなく、その「できかた」、「印象」、「実施者の意識内容」といった主観的な内容が中心に据えられるのです。

 発生運動学では今、目の前で実施された運動の評価をはじめ、「できないことができるようになる」という営みを、その意味を解釈することが重視されます。その分析にあたっては、実施者が運動中に意識していること、指導者や教師がその運動を観察した際に感じたこと等、運動の実施をめぐる意識に関心が集まります。そして、その意識を整理していく中で、運動を実施する際のポイント・これから目指すべき動き方を明らかにしていきます。講義では、毎時間中に行われるミニレポート課題を通して、受講生のこれまでの運動に関する経験の分析が試みられています。はじめは何を書いて良いのか分からない受講生であっても、授業への真剣な取り組みを経ていく中で、「そういえばあの時のあの体験は・・」といったように、自分と運動との向き合い方を反省的に分析・整理できるようになってきます。

昨今の世の中では、あらゆる物事の内容を評価する際に「数値」が重視されています。物事を数値に置き換えて評価・検討することは、私たちの生活を豊かにする上で決して否定される考え方ではありません。しかしながら、その反面、世の中には「数値に置き換えられないできごと」もあります。このような性質のできごとを無理やり数値に置き換えようとすると、そのできごとの本質が捨て去られてしまうこともあります。「スポーツと身体知」では、数値に置き換えられない世界にどっぷりと浸かって、「ああでもない、こうでもない、もしかしたらこうかもしれない」と思考を巡らせることを重視します。この作業は、大変な労力を要します。しかしながら私は、この労力こそが、運動を身につけた時の楽しさ・嬉しさを確たるものにしてくれるのだと思っています。このような取り組みを通して、今後、スポーツ運動に限らずあらゆる運動と向き合う際の態度を涵養することが、本講義の大きな目的です。「運動」というドラマチックかつダイナミックな世界について、本講義で一緒に考えてもらえたら嬉しいです。

 

スポーツ・健康科学教育研究センター/全学共通教育センター 吉本 忠弘

 

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