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2024/04/18
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【スポ健リレーコラム】[第33回]
人類の幸せは,「正志く 強く 朗らかに」
~ブータン王国訪問から(2024.2/10-2/14)~

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 飛行機の窓の外を見ると,急峻な山脈の合間に氷のようなヒマラヤ山脈がそびえたつ.世界で最も着陸が難しいと言われる空港,それがブータンのパロ空港だ.空港には管制塔はない.パイロットの視界飛行のみで,大きく機体を右左に傾けながら,渓谷をすり抜けていく.日本からバンコク経由で約10時間のフライド,時差は3時間,これまでのフライト経験から考えると,体内時計はそれほど驚いていないようだ.

 

 2024年2月10日,我々は“幸せの国”ブータン王国の地に降り立った.王国というだけあって,この国には王様が存在する.空港に到着すると王様と王妃の大きな看板が我々を迎え入れてくれる.空港内を足早に移動すると息が弾む.それもそのはず,今立っている場所は,富士山の五合目(約2,200m)あたりだ.さて,今回の目的は3つ.1つ目はブータンに根付き始めた日本文化の象徴である武道(柔道)精神の継承,2つ目は南アジア諸国の主要メンバーとの交流,3つ目は人が生きていくための幸せの根底を模索することだ.

*スーパーのスナック菓子

どれも気圧の影響でパンパンに膨れている

 近年,我が国ではインターナショナルという言葉に置き換わってグローバルという言葉が浸透している.つまり,日本から見た世界ではなく,地球規模で物事を捉えるという視点だ.日米和親条約(1854年)による開国から170年,今や日本はグローバル教育まっしぐらだ.一方,ブータン王国はというと,1971年に国連に加盟し,他国との交流が始まったのがここ数十年の話である.それまではというと,自国の文化やアイデンティティ保護のために鎖国政策をとっていたのだ.

*道路のいたるところで風になびく旗

ブータンは仏教国家.旗にはお経が書かれており,旗が風になびくとお経を読んでいることと同じ意味をもち,自然と共生しながら人々の幸せを願う.

 

 なぜ,ここに来ると,懐かしさを感じるのか.まるでポラロイドカメラで撮った写真の中に自分が吸い込まれてしまったような気持ちに襲われる.これは,ブータンの自然や町が織りなす景色や風景のせいだけではない.一番は,人だ.人が温かい.人が集まると,みんな車座で会話が始まる.大騒ぎをするのではなく,子ども大人も談笑というのがしっくりくる.お土産のお菓子を子どもたちに渡すと,1列になって両手を重ねて受け取り礼を言う.もちろん,当たり前のことだ.だけど,私も日本では子どもたち接する機会が多いが,このような光景に遭遇した記憶があまりない.特に印象的だったのが,人の話を聞く,その態度だ.一言一句,聞き逃すまいというキラキラした目は,帰国して数か月経った今も脳裏から離れることはない.

*昭和を感じさせる日用品店

ちょうど1間ぐらいのスペースで,客との会話が弾む.

 

 今回の渡航の3つ目の目的に挙げた「幸せの根底の模索」.これは,ありきたりの言葉かもしれないが,「感謝」という一言に尽きる.言葉では多くの人が「感謝の気持ちが大切」と述べられている.しかし,ここにきて思ったのは,感謝とは「意識するもの」ではなく,「醸し出されるもの」であるということだ.「感謝」を意識的に心がけているうちは,もしかしたら本物ではないのかもしれない.だからこそ,ここブータンでは自然と朗らかになる.甲南大学創設者の平生先生の言葉に「正志く 強く 朗らかに」とある.ブータンの自然は我々が想像する以上に険しい.みんなが協力して強く生きていかなければならない.そのような境遇だからこそみんな朗らかに.こじつけかもしれないが,この「朗らかに」がもしかしたら人類の幸せのキーワードかもしれない,と,帰路につきながら「幸せ」についてあれこれと考えてみた.

*街中にいる沢山の犬や猫たち

ブータンでは,路上の犬が吠えたり猫がおびえたりすることはない.町中の人たちが食事を与え,安心して野生でも生活することが出来るのだ.

 

スポーツ・健康科学教育研究センター/全学共通教育センター 曽我部 晋哉

 

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