ニュース

2024/10/16
TOPICS

【スポ健リレーコラム】[第39回]
皆で分かち合う/世界に通用する紳士であるということ
~エリアスタディーズ(コロラド)報告(2024.9/10-9/19)~

  • LINEで送る

 2024年に入り、日本の円相場は1ドル160円台まで値下がりし、なんと37年ぶりの円安ドル高水準を更新した。この円安ドル高は、海外留学を志す者にとっては費用面でかなりの影響を受けるので、国際交流センターの福本さんや森口さんとも顔を合わせては、ドル円相場の為替の話ばかりをしていた。アメリカ大統領選挙を11月に控え、トランプ氏の発言ひとつに何故かこちらまでソワソワしてしまう。

 

 そんな中、今年の夏も私は本学学生を引率し、アメリカのコロラドにあるフォートルイス大学に向かった。エリアスタディーズという短期留学授業のためだ。昨年、初めてMOUを結び甲南大学とフォートルイス大学の正式な交流が始まり、今年度からは交換留学のプログラムを締結した。円安のあおりを受け、デンバー直行便だと値段が跳ね上がるため、関空(出発地)-成田-サンフランシスコーデンバー-デュランゴ(到着地)と乗り継ぎ、なんと到着まで21時間を要してしまった。しかし、今回海外が初めてという学生も多く、渡航のプロセスさえも新鮮で、長旅の疲れというよりは高鳴る期待と緊張の面持ちが見て取れた。これから待ち受ける未知の世界、どんな人生のお土産を持って帰るのだろうか。

 毎回そうだが、今回のプログラムも、大人の我々が心底本気で考えた。学生たちに人生の糧となる経験をさせてあげたい。できれば、これを機に価値観がガラッと変わるぐらいの良いショックを与えてあげたい。数々のプログラムの中、何か一つでも心が揺れ動く瞬間があれば、と。

 

 例えば、5日目のこと。我々も予期せぬ胸躍る出来事があった。青空にロッキー山脈が浮かびあがるFort Lewis Collegeのホームスタジアムを訪れた。Arizona Christian Universityのアメリカンフットボールの試合が行われるからだ。大学のスタジアムでは、ビールを片手に持ちながら応援する者もいれば、同級生が出場しているのだろうか、顔に名前をペイントした友達が大きな声で応援している。皆それぞれの楽しみ方でボルテージは最高潮だ。ヘルメットとヘルメットが当たる音。190cmを超える大男たちの体の芯から絞り出す声。一瞬たりとも目が離せない。学生たちにダンスを教えてくれた副学長のMarioの話によれば、なんと、この試合に勝てば4年ぶりの勝利だというのだ。そして、いよいよその瞬間がやってきた。カウントダウンとともに、スタジアムに大きな唸り声とも言えない歓声が沸き上がる。「We won!!!」グラウンドの真ん中で選手たちが雄叫びを上げた瞬間、観客も選手も一斉に総立ちになって歓喜した。Marioも満面の笑顔でハグを求めてきた。

「行くぞ!」私は、戸惑う学生たちを引き連れて、観客席からスタジアムの歓喜の渦の真ん中に飛び込んでいった。“Congratulations !!” 誰かれ構わず、祝福しあい、近くで見る選手、観客、コーチ、ごちゃまぜになり、単に喜びという言葉では表現しきれない最高の感情を共有しあう。学生たちもその渦の中で、これまで見せたことないとびきりの笑顔を見せていた。

 

 SNSが発達した現在、人と人、国と国の距離が近づき、いつでもどこでもスマホの画面一つで交流でき、情報も入手できるようになった。その反面、失ったものもある。それは、リアルな交流と体験、本当に目の前で起きる事象に心を動かすことだ。スマホの小さな画面からは得られない、360度広がるパノラマ、そこで生活する人々の息吹、みんなのパワーが集まった時の熱気。今回のアメフトの勝利は、もちろんプログラムには書いていない思わぬ結果で偶発的なものだ。でも、アクションを起こした者、外の世界に飛び出した者にしか、その景色をみることもその空気を感じることもできない。

「世界に通用する紳士たれ」甲南大学創始者の平生先生は言う。世界で通用するためには、自ら多くの経験をすること。そして、紳士として認められること。エリアスタディーズには、この教えが根底に流れている。

 

 

 

 

スポーツ・健康科学教育研究センター/全学共通教育センター 曽我部 晋哉

 

 

ニュースカテゴリ