
1919年に甲南中学校を設立した平生釟三郎は「人格の修養と健康の増進を重んじ,個性を尊重して各人の天賦の特性を伸張させる」という教育理念を掲げました。この理念は,今日においても甲南学園における建学の理念として継承されています。2023年4月現在において8学部14学科が設置されている本学の教育は,「人物教育」が第一義とされており,その内容は「人物教育のフレームワーク」として体系化されています。その詳細に関しては本学ホームページに記されているため割愛しますが,本稿では,甲南大学における「スポーツの専門家」としての立場から,上記フレームワークの一つである「正課外教育」において展開されている「組織的なスポーツ活動」(課外活動としてのスポーツ活動)における「あるべき姿」について述べることにします。なお,本学で「正課外教育」として行われている代表的な「スポーツ活動」は,「体育会活動」と「サークル活動」に大別されているため,以下では各活動別の「あるべき姿」について述べることにします。
【課外活動団体の原形】
筆者はスポーツを「固有の活動規範において楽しみを伴う非日常的活動」と定義づけています(詳細は基礎共通科目「生涯スポーツ論」でお話ししています)。大学生として,日常生活の根幹をなす活動は「学業」すなわち「正課」です。したがって,大学における非日常的活動とは,広義的に「正課から解放された活動」(課外活動)が意味されることになります。
「課外」において,共通した目的意識を持った愛好者が集まり,組織的にスポーツが実施されるようになる。これが「課外活動団体としてのスポーツ活動」の原形です。愛好者同士によって結成された課外活動団体は,その後の活動に伴う「固有の活動規範」の分化に伴い,「気晴らしを目的とする集団」か「達成力向上を目的とする集団」かに取りまとめられるようになります。前者に該当するのが「サークル」であり,後者に該当するのが「体育会団体」です。
【サークル活動】
「気晴らしを目的とする集団」としての「サークル活動」において最重視すべきことは,当該スポーツを行なった後の爽快感・気分の高揚をはじめとする「情緒的側面の充実」にあります。「サークル活動」として行なったスポーツを通して,日常生活では達し得ない「気晴らし」を実現することこそが,この活動の本質であり,これはレクレーショナルスポーツと同義的に捉えられます。
当該種目の経験がある者/ない者,得意な者/不得意な者など,多様な運動経験を有した者が集まり,各々の技能に拘らずに「気晴らし」を実現させる。サークルの運営にはこのような配慮が不可欠になるし,この姿を実現するために真剣に取り組むことこそ「サークル活動のあるべき姿」といえるでしょう。
【体育会活動】
「達成力向上を目的とする集団」としての「体育会活動」において最重視すべきことは,当該スポーツにおける達成力向上(技能向上)です。この種のスポーツは広義的に「達成スポーツ」,ないしは「競技スポーツ」と呼ばれており,「競争」を本質とした活動ともいえます。そこでは,「競技会」に代表される技能評価の場に向けて,活動者自身・活動団体の達成力向上を目的とした「長期にわたる練習」(トレーニング)が行われます。
「体育会活動」においては対内的であれ対外的であれ,常に「勝ち/負け」,「達成/未達成」をはじめとする競争の結果に向き合わねばなりません。そのため,「体育会活動」においては,この結果と向き合いながら,自身・団体としての技能向上が目指されるのです。個人として,団体としての技能を高めるための取り組みは,一筋縄では行かないし,時に苦痛をも伴います。しかしこのような取り組みの中で「技能が高まる自分」を実感できた時,それは同時に「体育会活動」独自の楽しみに気づいたことにもなります。技能向上を本意とし,「長期にわたる練習」に対して,真剣に取り組むことこそ「体育会活動のあるべき姿」といえるでしょう。
【教育としての課外活動の実現に向けて】
以上,本学における「サークル活動」と「体育会活動」における「あるべき姿」について述べてきました。「サークル」と「体育会」という,本学における代表的な「正課外教育活動」は,それぞれ異なる目的意識によって成り立っているのです。しかし,両者に共通しているのは「団体のあるべき姿に向けて真剣に活動する」ことです。これは一般常識としての,団体諸手続きの履行や,団体規律の遵守のみを示しているのではありません。それよりもむしろ「あるべき姿」の実現に向けた本質的活動(ここではスポーツ活動)における真剣さこそ求められるのです。このような真剣な活動の中にこそ,「正課」では身につけられない「課外独自の学び」が可能になるのです。
本稿の内容に関する具体的な論考は拙論をご参照ください。
・吉本忠弘,課外活動におけるスポーツコーチングに関する研究 -不測の事態におけるトレーニング施設の整備に注目して-甲南大学教育学習支援センター紀要 (7)15-29,2022年3月.
・吉本忠弘,本学における正課外教育活動のありかた -平生釟三郎の教育思想に基づく検討-,甲南大学全学共通教育センター紀要,(1)13–22,2023年3月.
・吉本忠弘,正課外教育活動において指導者に求められる能力に関する発生運動学的研究,甲南大学全学共通教育センター紀要,(2)1-12,2024年3月.
(スポーツ・健康科学教育研究センター/全学共通教育センター 吉本 忠弘)