
先日、サッカー元スペイン代表イニエスタ選手の引退試合には、多くのファンが集まり盛大に行われました。イニエスタ選手はスペイン代表としてW杯優勝に貢献し、F Cバルセロナキャプテンとして、ヴィッセル神戸キャプテンとして偉大な功績を残しました。
ところで昨今授業などで学生達と話をしていると「高校生の時に現役を引退しました」、「中学生の時に部活を引退し高校の時は何もしませんでした」など部活動について「引退」という言葉をよく耳にします。ウイキペディアによると「引退は官職や地位などから退いたり、スポーツ選手などが選手としての身分から離れたりすることである。プロスポーツ選手の他、スポーツを行っている学生生徒らが最終学年となって高校、大学受験、就職活動などで試合出場の機会が無くなり、所属するクラブや部活動から離れることも引退と呼ばれる。」とあります。彼らの「引退」という言葉の使い方は間違いないようですが何か違和感を感じるのは私だけでしょうか。
ここからは「引退」について私の考えるところを述べたいと思います。
基礎体育学演習・生涯スポーツでは、60年以上の長きに渡り冬季の集中授業としてスキーを行なってきました。最近は長野県のMt.乗鞍スノーリゾートで授業を行っています。そのスキー場でペアリフトに乗車した時のお話です。スキー場のスキーヤーは、ウエアやゴーグルによってその年齢や性別など全くわからないことがしばしばあります。その時私と一緒にペアリフトに乗車したスキーヤーは、少し小柄で背格好から中年の女性の方かなと想像していましたが話しかけてみると何と70過ぎの元気な女性でした。その女性の元気な立ち振る舞いやお話に大変魅力を感じ、リフト降り場に着くまでの短い時間でしたが楽しい時間を過ごしました。
その女性によると「グループでスキー場に来ていて、あの前に乗っている女性は90歳だよ」と仰っていました。更にお話を伺うとスキーが大好きな仲良しのグループでスキー場巡りをされ、毎年楽しみにしているということでした。スキー場からスキー場へ宅急便で荷物を送り、ここMt.乗鞍スノーリゾートからも次のスキー場へ荷物を送り、グループの皆さんと一緒に移動してスキーを楽しむということでした。その女性は60歳を過ぎてからスキーに挑戦されたそうで「こんなに楽しい趣味があったんだ。もっと若いうちに知っていれば・・・。」とつくづく感じたと仰っていました。私が大学生のスキーの授業で来ていることをお伝えすると、リフト降り場で別れる時に「スキーは楽しいよ。私のように子育ても終わり、子供達が巣立ってから自分の時間を持ち趣味を探すのではなく、若いうちから色々なことに興味を持ってチャレンジすべき。ぜひ学生さん達に伝えて。」と付け加えられ別れました。勿論、その後受講していた学生達にこのことを伝えました。(自画自賛になりますが集中スキーはお勧めの授業の一つだと思いますし、スキーは生涯続けていくことのできるスポーツだと思いますので興味のある方は是非受講してください。)
閉講式後の参加者全員による記念撮影
我が国では、人生80年時代と言われてから長い年月が過ぎ、最早人生90年時代、人生100年時代に突入しているそうです。そして産業社会における仕事中心のライフスタイルデザインを仕事とレジャーのバランスを考えたものにシフトしていくことが望まれており、今後益々これらのバランスが必要になってくると思います。レジャーには、スポーツ、趣味などが含まれます。人生時計(人間の一生を時間に換算して24時間にあてはめたもの。実年齢を3で割る)にあてはめると皆さんが18歳なら朝の6時という計算になります。つまり皆さんの多くは朝の6時にもう「引退」と宣言しているようなものです。これから4倍以上の人生を過ごさないといけないのです。そして私が最近気付いた事は、特に感覚的な部分や技術的な部分は私の歳(64歳)になっても衰える一方ではなく、いまだに新しい感覚や技術を身につけることができるということです。「引退」をしている場合じゃないなと気付かされる毎日です。是非、皆さんも生涯続けていくことができるような趣味やスポーツを発見し、向上心・探究心を持って新しい感覚を求めてみてください。色々な場面で学生達にも話していますが、人生時計6時頃の大学生は社会に出て活躍する準備、人生を豊かにする準備をしているのです。皆さんの年代で「引退」している場合じゃないということ、人生を豊かなものにするためには仕事とレジャーなどのバランスをとることがとても大切になってきているということです。私は今も新たな感覚を発見し身に付けることが楽しみで仕方ありません。是非、皆さんも趣味やスポーツを向上心・探究心を持って生涯「現役」で楽しんでください。
(スポーツ・健康科学教育研究センター/全学共通教育センター 桂 豊)