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2025/10/01
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【スポ健リレーコラム】[第51回]
元気なベトナムという国

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 今年3月より8月まで在外研究員制度を利用して、ベトナムに滞在しました。ベトナム・サッカーに関する内容は、他に報告する機会があると思いますので、ここでは私が初めて訪れたとても元気なベトナムという国について紹介したいと思います。

 ベトナムは1975年にベトナム戦争を終結させ、現在はベトナム社会主義共和国と称しています。1980年代以前は農業が中心のとても貧しい国だったそうです。1980年代のドイモイ政策(ベトナムでは社会主義体制を維持しながら市場経済と対外開放を推進する改革路線に舵を切りました)によりベトナムの経済は安定的に成長を続けています。2024年の経済成長率は7.0%を超え、人口も増え続けている東南アジアの中で大変勢いのある色々な面で元気な国の一つだと思います。一方2023年の平均寿命が73.7歳、健康寿命が64歳に留まるというデータもあり、ベトナムでは男性は約8年、女性は約11年、病気と共に生きることになると言われているようです。私の受けた印象では街中には若い世代が多く、子供達で溢れていました。私が出会いお世話になったベトナムの人達はとても親切で人懐っこく笑顔が素敵で対日感情も良く、治安の良さもとても好印象でした。ただ、フランスなど諸外国の影響があった中で、母国語以外例えば英語教育等が不十分で、ベトナム語以外の言語で会話できる人が少なく、今回の渡越で英語を少しでも使えたらと準備をしていた私の思惑は大きく外れ、AI翻訳機が頻繁に活躍する日常となりました。

 ベトナム・ハノイ入りして、まず驚いたことは大気汚染の酷さです。PM2.5などの数値が世界トップクラスに高いハノイの空はどんより曇っていることが多かったです。道路に溢れんばかりのバイクの数(歩道がバイクで埋め尽くされ、歩行者が歩けないこともしばしばでした)で、交通量が多く渋滞が多発していました。公共交通機関が未発達のベトナムでは、バイクが日常利用されており、ベトナムのバイク保有率は世界最高水準の77%だそうです(バイクの多くはホンダやスズキ等日本のメーカーのものでした)。バイクには、一人乗りかと思えば二人乗り、三人乗り、四人乗りと友人達や家族みんなで乗っているという表現が適しているのか、日本では信じられない光景が広がっていました。VinグループはVin スクールという小学校も多数建設しており、ここに通う生徒達の送り迎えではお父さんお母さんが車やバイクで大活躍していました。今回お世話になった通訳の方の話によるとバイクや車を利用したドアtoドアの生活の便利さを一度覚えてしまったベトナム人がその利便性を大いに活用しており、それが大気汚染につながっているということでした。またベトナムでは、経済活動が活発になり高い経済成長率を達成し国民の生活が改善され、高層マンション群が次々と建設されており、早朝から深夜まで工事の騒音が聞こえる程でした。このように東南アジアで発展し続けているこの国では、Vinグループという国内最大の企業がベトナム政府と協力して国内の様々な問題の対策にあたっていたのが印象的でした。

 

 この大気汚染に対するベトナム政府やVinグループの対策ですが、まず交通網のEV化が挙げられると思います。VinグループはVin Fastという電動の車やバイクを販売しており、これらは街中で見かけることができました。また日本でも少しずつ普及しているようですがアプリを使って呼び出せるEV化されたグリーンタクシーやバイクタクシーも安価(日本のタクシーの1/5程度でしょうか)で大変人気があり、道路脇にはたくさんの充電設備が整えられていました。また、最近では大気汚染の根源と言われるエンジンを積んだバイクのハノイ市内の走行を制限する法案なども検討されているようです。

 次はVinグループのスマートシティ構想についてです。ベトナムのI T環境は高い水準にあり4Gカバー率が99.8%、スマートフォン普及率も63%に達しておりベトナムの都市開発の重要なトレンドとなっているようです。そして貧富の差や地域格差が激しいと言われていたベトナムですが、昨今経済成長を続け中間所得層の国民が2010年10.1%だったものが2020年には51.2%まで増加し、スマートシティというVinグループが手掛けるベトナム流コンドミニアム型高層マンションが完成前に完売するなど若い人達にとても人気のようでした。2030年には、国民の約50%が都市近郊のスマートシティ構想の高層マンション群に移り住み地域格差を軽減することを目指しているということです。スマートシティでは、EV化されたVinバスがスマートシティ内とVin Mega Mall(Vinグループが経営するスーパーの入った大型商業施設)を無料で循環運行していました。外食文化が浸透しているベトナムでは、各マンションの1階にVinミニスーパー、軽食レストラン(ここでお馴染みのフォー食べたり、バイミー、簡単なお惣菜を手に入れることができます)、カフェ(ベトナムはコーヒー豆の生産が世界第2位、ベトナムの人達はコーヒーが大好きでカフェがたくさんありました)、美容室、マッサージetc.が備えられ、マンション住民がエレベーターで1階に降りてきて食事をしたり簡単な買い物をすることができとても過ごしやすそうな生活環境で感心しました。

 このように現在でも経済成長を続ける元気なベトナムではありますが、日常の生活でバイクを大いに利用しているベトナム国民(バイク利用率週6.9日)は、世界一運動しない国民とも言われているようです。バイクは便利である反面、ベトナム国民の公共交通機関や自転車の利用、徒歩の意欲の妨げになっているそうです。ベトナム政府が2010年に策定した2020年までのスポーツ基本計画には2020年までのスポーツ開発戦略として、国民の健康と生活の質、平均寿命の向上に向けた国の体育及びスポーツシステムの構築についてのガイドラインが記されています。私はベトナムという国に降り立つまでベトナムのイメージは、映画「ランボー」の主人公ランボー(少し古いですね)が大活躍するジャングルのイメージがあったのですが、そのような景色などどこにもなく、写真にあるようなスマートシティのような高層マンション群が矢継ぎ早に建設されていました。そしてその中庭にはテニスコート、プール、バレーボールコート、バドミントンコート、バスケットコートなど運動設備が設けられ、室内にトレーニングジムが完備されている棟もあり、多くの住民が汗を掻いていました。世界一運動しない国民というイメージからはかけ離れた光景が広がっていました。汚名を返上する日も近いと感じています。

 

 今回、とても仲良くなったベトナム人のサッカー指導者の人たちがいます。ベトナム語が全く話せない私と、ベトナム語以外全く話せない彼らが仲良く話しているのを周りは不思議な気持ちで見ていたようです。私が翻訳アプリと日本語と身振り手振りで話すことを彼らは一生懸命に聞いてくれました。私も彼らが教えてくれる話しがとても面白く、気がついたら4時間ぐらい話し続けていたこともありました。本当に相手のことを知りたい、この人の話は面白いと思った時に、人は言語の壁があっても寄ってくるのだと感じました。

 本学の創設者、平生釟三郎先生は「人間はおもしろいかありがたいかのいづれかでなければ寄つてくるものぢやないよ」という言葉を残されました。甲南が人物教育に重きを置く理由はここにもあると思います。

 ベトナムに初上陸し、ハノイ・ノイバイ空港から市内までの幹線道路を走るタクシーからは、水牛が畑を耕す手伝いをしていたり、アヒルや、牛が自由にその辺を歩いている田園風景が目の前に広がっていました。しかし、ベトナムでの生活が五ヶ月を過ぎた今、それらの風景とは異なる方面で、想像を超える勢いで発展している国の一つであることを感じました。日本の企業の進出も大変増えているようで今後の発展が楽しみな注目すべき国ではないでしょうか。一度学生の皆さんも機会を作って発展を続けるベトナムに行ってみてください。良い刺激を受けること間違いなしのお勧めの国です。

 

参考文献:ベトナム経済・ビジネス情報サイト Viet Biz

                                    ベトナムニュース総合情報サイト VIETJO

 

スポーツ・健康科学教育研究センター/全学共通教育センター 桂 豊

 

 

 

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