
2025年10月6日、甲南大学の卒業生であり、ミズノ株式会社相談役会長の水野正人氏(1966年経済学部卒)が、全学部2年生対象科目「プラクティカル・キャリアデザインⅠ」で講演を行いました。本科目はグループワークを通して最適解を考えていく授業です。今回のテーマは、水野氏の提案による「民主主義の危機と、公益・倫理資本主義のすすめ」。世界の動きや企業経営の視点を交えながら、人生の指針となる考え方を学生に語りかけました。
公益倫理資本主義と「三方良し」
講演の冒頭で水野氏は、日本の商いの伝統である「三方良し」――「売り手良し、買い手良し」に加えて「世間良し」という考え方を紹介しました。
「この“世間良し”こそが公益であり、倫理である」と述べ、利益だけを追求するのではなく、社会全体の幸せを考える姿勢の重要性を説かれました。また、「グローバル社会が“win-win”ばかりを重視しがちな今だからこそ、日本の“世間良し”の精神を見直すべきだ」と学生に呼びかけました。
人類が直面する「3つのE」と民主主義の危機
続いて水野氏は、現代社会が直面する「3つのE」―
Environment(環境)、Epidemic(感染症)、Economy(経済・政治)――を挙げ、それぞれの課題が人類の未来に与える影響を解説しました。
特にSNSの普及によるフェイクニュースや、人々が「耳障りの良い情報」だけを求めがちな傾向が、民主主義の危機を招いていると指摘。「耳障りの悪いことでも、きちんと聞く耳を持つことが、正しく生きる第一歩です」と学生に語りかけました。
人生を豊かにする「3つのF」
さらに、人生を生き抜くためのキーワードとして「3つのF」――
Fair Play(フェアプレイ)、Friendship(友情)、Fighting Spirit(挑戦心)――を紹介しました。水野氏は「成功する人に共通しているのは、伸び伸びとしていることです」と話し、学生たちに「自分らしく、のびやかに生きてほしい」とエールを送りました。
学生たちの心に響いたメッセージ
講演後のリアクション課題では、学生一人ひとりが時間をかけて自分の言葉で感想を綴っており、深い印象を受けたことが伝わってきました。
以下に、学生の感想の一部を紹介します。
「水野氏が伝えたかったのは、地位や能力よりも“人として正しく生きること”。誠実さや感謝、責任という倫理観を持って生きる大切さを学びました。」
「損得ではなく、正しいことを選ぶ勇気を持つこと。その小さな誠実さの積み重ねが、社会や民主主義を支えるのだと感じました。」
講義を終えて
90分間、原稿やスライドに頼らず全身で語りかける水野氏の熱意に、教室全体が引き込まれました。社会のあり方や自分の生き方を見つめ直す貴重な時間となり、学生にとって忘れられない経験になったようです。このたびご講演いただいた水野氏に、心より感謝申し上げます。
全学共通教育センター 特任教授 武田 佳久