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2026/07/01
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【スポ健リレーコラム】[第60回]
専門を越えて、スポーツ健康科学を学ぶということ
―スポーツ健康副専攻、初めての論文集から―

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ひとつの問いが、学生の学びを大きく変えることがある。

 

 「身長が低いと、棒高跳びでは不利なのか」。

 「体育の授業で感じる“恥ずかしさ”は、他の教科と何が違うのか」。

 「試合で緊張すると、本当にパフォーマンスは落ちるのか」。

 「物価の上昇は、スポーツ大会の運営にどのような影響を与えるのか」。

 

 これらは、いずれも甲南大学スポーツ健康副専攻の学生たちが、自らの関心から立てた研究テーマである。2023年4月に開設されたスポーツ健康副専攻では、所属する専門学部での学びを基盤としながら、スポーツや健康を科学的・社会的に捉える力を育ててきた。そして今回、その学びの成果として、初めての「スポーツ健康副専攻論文集」が発刊された。

 

 

 山口真依(文学部)さんの研究は、女子棒高跳びにおける助走速度と身体的特徴が跳躍高に及ぼす影響を検討したものである。競技の現場では、「身長が低いと不利」「体重が軽いとポールを曲げられない」といった言葉が語られることがある。しかし、山口さんはその言説をそのまま受け入れるのではなく、自らデータを集め、助走速度や身体的特徴との関係を分析した。そこには、経験から生まれた疑問を、科学の言葉で確かめようとする姿勢がある。スポーツ健康科学の面白さは、まさにこのようなところにある。自分が感じてきたこと、自分が競技の中で聞いてきた言葉を、研究という方法で問い直すことができるのである。

 

 梶原春奈さん(文学部)の研究は、体育授業における「恥」の要因を、他教科との比較から考察したものである。体育は、身体を動かす教科であると同時に、自分の動きや失敗が周囲に見えやすい教科でもある。できる、できないが可視化される場面では、学びの前に「恥ずかしい」という感情が立ちはだかることがある。梶原さんの研究は、スポーツや体育を単に技能習得の場として見るのではなく、感情や人間関係、学習環境の視点から捉え直している。これは、教育学や心理学とも深くつながるテーマであり、スポーツ健康科学が人の心や社会のあり方にまで広がる学問であることを示している。

 

 また、福井麻友さん(文学部)、久保美佳さん(文学部)、岡田千晶紀さん(文学部)の研究は、いずれも「緊張」とスポーツパフォーマンスに関わるテーマである。競技場面では、誰もが緊張を経験する。しかし、その緊張は単純に悪いものなのだろうか。適度な緊張は集中力を高めるのか。心拍数の変化は、心理状態をどのように映し出すのか。自信や不安は、パフォーマンスとどのように関係するのか。これらの研究は、スポーツの結果を技術や体力だけで説明するのではなく、心の状態、生理反応、経験の違いを含めて多面的に捉えようとしている。ここにも、スポーツ健康科学ならではの視点がある。

 

 さらに、木崎萌菜さん(経営学部)の研究は、物価上昇が大会運営に与える影響を取り上げたものである。スポーツは、選手や指導者だけで成り立つものではない。会場、用具、参加費、運営費、地域社会の支えなど、多くの要素があって初めて大会は開催される。物価上昇という社会的な変化は、競技を続ける環境にも影響を与える。木崎さんの研究は、スポーツを経営や社会の視点から捉えたものであり、スポーツ健康副専攻が、競技力や健康づくりにとどまらない広い学びであることを教えてくれる。

 

 今回の論文集を読むと、スポーツ健康副専攻の魅力は、単にスポーツについて詳しくなることではないと感じる。むしろその本質は、自分の専門を持ちながら、そこにスポーツ健康科学という新しい視点を重ねられることにある。文学部の学生が身体や競技を科学的に考える。人間科学の学生が緊張や感情をスポーツ場面から読み解く。経営学部の学生が大会運営や社会環境をスポーツの現場から考える。専門が違うからこそ、同じスポーツを見ても見える景色が変わる。

 

 大学での学びは、ひとつの専門を深めることが大切である。しかし、社会に出れば、問題は一つの専門領域だけで解けるとは限らない。健康、教育、地域、経営、心理、文化、環境。現代社会の課題は、いくつもの領域が重なり合うところに生まれている。だからこそ、大学生の今、まだ多くのことに興味を持てる今、ひとつの専門に閉じこもるのではなく、幅広い視野を持って学ぶことには大きな意味がある。

 

 スポーツ健康副専攻は、そのための扉である。

 

 自分の専門を捨てるのではない。専門を持ったまま、もう一つの視点を得る。自分の経験を問いに変え、問いを研究に変え、社会を見る力に変えていく。その過程で、学生たちは少しずつ、自分の世界を広げていく。

 

 初めて発刊された論文集には、完成された答えだけが並んでいるわけではない。むしろそこには、学生たちが悩み、調べ、考え、自分の言葉でまとめようとした足跡がある。その一つひとつが、スポーツ健康副専攻の歩みであり、甲南大学の新しい学びのかたちである。

 

 これから社会に出ていく学生たちには、ぜひ幅広い視野を持ち続けてほしい。専門を深めながら、異なる分野にも心を開いてほしい。自分の問いを大切にし、簡単に答えを急がず、さまざまな角度から物事を見つめてほしい。

 

 スポーツ健康科学は、身体を知る学問であり、心を知る学問であり、人と社会を知る学問でもある。

 その広がりの中で、学生たちの学びは、これからも豊かに育っていく。

 

スポーツ・健康科学教育研究センター/全学共通教育センター 曽我部 晋哉

 

 

 

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