フロンティア
サイエンス研究科
生命化学専攻
FRONTIERS OF INNOVATIVE RESEARCH IN
SCIENCE AND TECHNOLOGY
サイエンス研究科
フロンティアサイエンス研究科では、生物と化学の融合分野「ナノバイオサイエンス(生命化学)」を基軸とし、学部で培った専門知識やスキルをさらに発展させる教育・研究を展開しています。
少人数制による密な研究指導のもと、独創的かつ実践的な研究力を育成。研究領域は、医療、高齢化、環境、エネルギー分野などの社会課題に関連し、高い社会的意義を持ちます。情報収集、課題設定、論理的考察、研究成果の発信、生命倫理への理解など、多面的な力を備えた人材の育成を目指しています。
生命化学専攻は、社会的注目度が高く、将来にわたって学術的・産業的に重要なナノとバイオの融合領域「ナノバイオテクノロジー」および「生命化学」をターゲットに教育・研究を行います。隣接して設置される研究所(先端生命工学研究所(FIBER))ではすでに本分野で世界的に注目される多数の業績を挙げています。また、本専攻が設置されるポートアイランドは、バイオ、食品、化粧品、医療、創薬関連の企業が集積した世界有数のバイオクラスターとして知られており、本専攻が築く公的研究機関や企業、他大学との連携を通じて、研究・教育を展開します。
本専攻では、研究者や技術者、産業界のリーダーとして活躍する即戦力の人材の育成を目指しています。そのために、化学や生物学といった基礎的な学問領域のみならず、実社会の産業と直結する医療、創薬、食品、化粧品、エレクトロニクス、材料開発等の周辺領域の知識や技術も身につけます。さらには、学会発表や学会開催の補助、FIBERが招聘する国際的に活躍する研究者との交流を通じて研究者・技術者に求められるプレゼンテーションや英語コミュニケーションの能力についても緻密な教育を行い、世界を舞台に活躍できる人材の養成を目指します。
研究分野はナノテクノロジー、材料工学、有機化学、錯体化学、高分子化学、生命化学、バイオテクノロジー、遺伝子薬学、発生学など、化学、生物学を中心とした基礎学問から応用学問領域にまたがる幅広い分野にわたっており、個人の興味・関心(研究分野)と指向性(基礎~応用)にあわせたプログラムによりナノバイオを総合的に学ぶとともに、一人ひとりに与えられたテーマに基づいて専門性の高い研究を行うことができます。また、研究指導は一人の学生に対して指導担当となる教員の他に、専門が異なる複数の教員が共同で責任を持ち、柔軟で最適な指導体制を取りますので、深い専門性のみならず、幅広いバックグランドも同時に身につけることができます。
ケミカルサイエンスフロアには、生物有機化学、生物無機化学、有機合成化学、機能性高分子を専門とする4つの研究室があり、有機化学をベースに、人工酵素や凝集発光色素、診断用知的材料のような有用な機能材料の合成、高度医療診断システムの開発、環境センサーや天然素材を利用する機能性食品・化粧品の開発などの研究に取り組んでいます。
“プラスチックの中に分子の型を取る”という方法により、生理活性物質や環境負荷物質を認識して捕捉する高分子を設計・合成しています。“分子の型”は、特定の生理活性物質や環境負荷物質に合わせてつくられるので、河川水や農作物から特定の物質を除去したり抽出したりすることができます。また、それらの分子を捕まえると高分子の色や形が変わるように設計する試みを行っています。
生体中では様々な金属イオンが極微量ながら非常に重要な役割を果たしています。そのような生体中の金属イオンがタンパク質や他の生体分子とどのように関係しつつ、機能を発揮しているのかに注目して研究し、得られた知見の実社会へ応用を図っています。現在は、新規に開発した金属—ペプチド錯体の医療への応用や、金属酵素のモデル錯体の人工触媒としての応用に取り組んでいます。
有機合成という手段を用いて、①新しい機能を持つ化合物の合成、②生命分子と有機分子の機能融合、③医療やバイオテクノロジーに利用可能なプローブの合成、④新規有機反応の探索、などを行っています。現在はガンの早期診断のための分子センサーに利用できる機能性色素や分子プローブを作っています。研究室での発見が少しでも社会の役に立つことを目標に研究に取り組んでいます。
生物のもつ優れた機能に倣い、有機化学のアプローチから生体に働きかけることのできる新しい分子を設計・合成しています。現在は、生物が環境に適応するために産生する代謝物質やキノコや海藻の細胞壁を構成する柔軟性に富んだ多糖(β−グルカン)に注目し、その酵素活性化機能や、薬物包接機能をもとにした医療診断薬の高感度化試薬の開発、医薬品・食品・化粧品の機能化を目指した研究に取り組んでいます。
ナノサイエンスフロアには、機能システム化学、ナノ材料化学、無機光化学を専門とする3つの研究室があり、サイズや形状を制御した機能性無機ナノ材料(金属錯体、金属・半導体ナノ粒子など)の精密合成や、それらと異種材料(有機分子、高分子、生体材料)との複合化、薄膜材料への機能性付与と回路基板の開発、およびセンサーや電子材料への応用などの研究に取り組んでいます。
無機材料や、それらと高分子との複合体のナノ構造を精密に制御した機能性材料の開発に取り組んでいます。社会における近年のエネルギー、環境問題に貢献することを目的とし、高効率で熱を電気に変換する熱電変換材料や、燃料電池のセパレータ基材の表面処理フィルムおよび廃液を産生しない金属電析技術の開発など、企業との共同研究を積極的に行い実用化を目指した応用展開を進めています。
「光」は我々の生活に欠かすことのできないものであり、本研究室ではナノテクノロジーを駆使することにより新たな発光材料の開発や、光を利用したデバイスの開発に取り組んでいます。また、興味深い光特性を備えたナノ材料を異なる性質を示す材料と複合化させることにより両者の性質を兼ね備えた新たな材料の作製、および物質検出システムや触媒への応用について検討しており、基盤技術と応用技術の調和・融合による新たな領域の展開を目指しています。
材料の機能を設計する上においては、その材料を構成する物質をいかに配列させるかが極めて重要です。本研究室では、物質の精密集積化とそれに伴う革新的機能の発現を目指しています。有機分子から無機材料まで幅広い物質群をその研究対象としており、それぞれの物質の個性(機能)が最大限に発揮される“機能システム”の構築に向け、研究に取り組んでいます。
ナノバイオサイエンスフロアには生体分子工学、生体機能化学、生命物理化学、細胞生物学を専門とする4つの研究室があります。様々な生体分子(タンパク質、ペプチド、DNA、RNAなど)や細胞を使って、生体機能の解明、がん細胞の検出や治療に役立つ機能性分子の開発、新しい治療薬・診断システムの開発、機能性ナノ材料の開発、再生治療法の開発などの研究に取り組んでいます。
DNA・RNA・タンパク質がもつ優れた機能を物理化学的な視点から解明し、医療や産業分野に利用するための研究を行っています。化学的手法・分子生物学的手法・機器分析法などを用いることで、遺伝子発現やシグナル伝達機構の物理化学的な側面を明らかにし、その制御技術の開発と予測法の構築を目指しています。新しい遺伝子診断法や診断キットの開発、高感度分子検出システムの構築、機能性生体材料の創製につながる技術研究も行っています。
細胞の中で、核酸などの生体分子は、どのような構造を形成し、どのような機能を発現しているのでしょうか。本研究室では、細胞内の特殊な分子環境下における生体分子の物性を解明することを試みています。さらに、得られた知見を、(1)細胞のがん化に関与する核酸の高次構造と結合する分子の合理設計、(2)細胞環境に応答するナノバイオデバイスの構築、(3)細胞と試験管を橋渡しする新規実験系の構築、に繋げていきます。
“バイオ”高分子、特にタンパク質の小型版であるペプチドに着目し、ナノバイオ分野における“計測”・検出・解析・制御システムの構築を“化学”的なアプローチで目指しています。天然のアミノ酸のほか、人工のアミノ酸、蛍光分子、光反応分子などを組み合わせて、人工のペプチドを構築し、それに構造や機能を持たせる方法で、バイオテクノロジーはもちろんのこと、ナノテクノロジー分野までの幅広い工学分野への展開を行っています。
幹細胞の一つとして知られている間葉系幹細胞は、再生医療の臨床応用において最も使用されている細胞ソースです。本研究室では、間葉系幹細胞と老化に焦点を当てて研究を行っています。細胞自身だけでなく細胞が分泌する生体分子の検出や解析を行い、間葉系幹細胞の特性を多角的に理解することで、間葉系幹細胞や生体分子を用いた老化に対する効果的かつ実用化可能な再生治療法の開発を目指しています。
バイオサイエンスフロアには、生命高分子科学、腫瘍分子生物学、分子細胞発生学、遺伝子薬学を専門とする4つの研究室があり、バイオテクノロジーだけにとどまらず、化学や物理学の視点も取り入れた幅広い視野で基礎研究を押し進めるとともに、常に臨床応用や治療・診断を視野に入れ、病院や医療関連企業とも連携しながら、人の命を救い、人の健康に役立つ研究に取り組んでいます。
発生学は、卵から身体をつくる過程で細胞が分化するメカニズムを解明します。一方、iPS細胞も線維芽細胞などを変化させて作製しますし、ガン細胞が時々刻々変化していることも明らかにされつつあります。そのような細胞の変化を「細胞応答」と捉え、その調節メカニズムを明らかにすることで、形態形成メカニズムや細胞生物学の諸課題を明らかにするとともに、免疫、ガン治療、皮膚のアンチエイジングなどへの貢献を目指しています。
遺伝子の本体であるDNAやRNA(核酸)を医薬品として利用する試みが始まっています。核酸医薬は、もともと体の中にある物質を使用するため副作用が少なく、また既存の医薬と全く異なるメカニズムで働くため、有効な薬がない難治性の病気に対する治療薬が開発できるのではないかと期待されています。我々の研究室では、あらゆる病気に適用することができる、効果的な核酸医薬の設計方法を提供する研究に取り組んでいます。また、この技術を遺伝子工学へ応用し、生物の機能を制御する機能性核酸の開発も行っています。
当研究室では、生命高分子科学をベースにした分子設計、及び細胞工学的手法を駆使した細胞機能制御により、新規な高次機能バイオ分子・バイオマテリアル、バイオテクノロジー、自然界にはない機能を有する人工細胞の創製を目標としています。さらに、それらを活用することで従来にはない医療技術や治療概念を生み出し、それらを世界に向けて発信・提供することにより、既存の医療では救えなかった多くの人々を救うことに挑みます。
細胞を取り巻く物理的環境は、特異的なシグナル(メカノシグナル)として細胞内に伝わり、分化や増殖といった細胞の運命を左右します。私たちは、がん病態と深く関わるアクチン動態やDNAの高次構造がメカノシグナル伝達とどのように関係しているのかを明らかにし、がん細胞の特性理解を深めることを目指しています。さらに、がん抑制遺伝子p53がこの仕組みに果たす役割を解明することで、新しいがん分子標的治療法の開発につなげようとしています。
甲南大学先端生命工学研究所(FIBER)は、生命分子工学分野において高度かつ先端的研究・教育を実施することを目的とした研究所です。現在は、甲南新世紀戦略研究プロジェクト(第I期)「非ワトソン クリックワールドの核酸化学の確立と国際核酸化学研究拠点の形成」が採択され、世界の先駆的な核酸研究を行う研究グループと連携して、研究を遂行しています。
細胞内での核酸は二重らせん構造を形成し、どのようなタンパク質がいつ、どこで、作られるかという遺伝情報を保持しています。一方で核酸は二重らせん以外の非二重らせん構造も形成することができ、非二重らせん構造が形成されると生体内の重要な反応に影響し、タンパク質の産生が抑制されたり、変異を受けたりします。本研究室では、生体内で非二重らせん構造がもつ役割を解明し、制御する技術を開発しています。これら技術はヒトだけでなく、植物やウイルスなどにも適応できるため、疾患の治療法の開発や、遺伝子組み換えやゲノム編集技術を行わない品種改良などに応用できます。
研究分野の生命物理化学とは生命と名前がついてあるとおり、生命現象を明らかにする研究を、物理と化学の知識や技術を使って行っています。本研究室で対象とするのは主に核酸(DNAやRNA)やタンパク質といった生体分子で、それらの分子を通して生命の成り立ちを理解することを目指しています。本研究室で主に取り組んでいる研究内容は、核酸やタンパク質の機能を定量的に解析し(数値化)、その機能を理解・予測することです。具体的には、ウイルスやヒトの遺伝子が複製される際の速度やその正確さに与える影響を核酸の配列から予測するシステムの開発などを行っております。
核酸分子(DNAやRNA)が他の生体分子とどのように相互作用し、核酸分子自体の構造や、その後の遺伝子の発現にどのような影響を与えるのかを物理化学的に解析しています。また、人工的な機能性核酸を構築する工学的な研究も行っています。例えば、外部刺激に応答して構造が変化する核酸分子を開発し、バイオセンサーなどに活用しています。基礎研究(生命を知る研究)を通じて得られる知見を応用技術(生命を活かす研究)に結びつけ、生命科学や医工学分野に貢献できる研究成果の発信を目指しています。